目利きが語る“私の10冊” 第23回 池上高志 レポート
2013年1月11日(金) ヒルサイドライブラリー
今回のゲスト池上高志さんが選んでくださった10冊は小説や詩集、哲学や物理など多岐に渡るものでした。

大学時代に読んだという三島由紀夫の『豊饒の海』は壮大なSFでありつつ、主観性ということが書かれているとのこと。当時の池上さんの心境をよく表しており、色々なことを考えさせられたと言います。
同じく大学時代にはまっていた宮沢賢治の『春と修羅』。序章の詩は、池上さんの研究の方向を支えてくれたといいます。「科学するマインドの重要さが書いてあり、こういう詩を読むと科学することに希望を持つ。サイエンス魂が溢れている本」と池上さん。
ベイトソンは思想上の師匠であり『精神の行動学』の序章を読むと泣いてしまうそう。読む度に頭が揺らぐ感じがして、この感じがなくなったら終りなんじゃないかと思い、それをチェックするためにも開くとのこと。
同じく時々開いて衰えていないかチェックするというのはウィトゲンシュタイン全集『第8巻 哲学探究』。どこを開いても誰にも考えつかないことが書いてあるといいます。

朝永振一郎『スピンはめぐる』は大学一年生のときに読み「これはすごい!」と感動した本。「普通に生活していてもたどりつけない思想っていうものがあり、それをどうしてもどこかで見るべきだ」と池上さんはいいます。「人間の知性っていうのは無限に賢いわけではないが、なにかの方法を使うとこの伸び代は埋めることができる。それが本やコンピューター」「『スピンはめぐる』が一般に教養として知られていないのが非常に残念」「難しさをわかることも重要。自分がわからないものがどういうものかってわかる事は大事」などと学ぶことへの熱い思いを感じる言葉が多く飛び出しました。
専門的なお話では難しい部分もありましたが、池上さんの情熱的な説明からは“おもしろい”という気持ちが伝わってきました。また他にも最近読み感銘を受けた小説や、大好きな作家のものなどを紹介。1冊1冊エピソードや魅力をお話しくださり、お話を聞くとどの本も手に取りたくなりました。「本」や「学ぶこと」のおもしろさ、大切さを再発見させられたセミナーとなりました。