人生に大切なことはすべて絵本から教わった レポート 第6回 「母を語る」
2012年4月14日(土) ヒルサイドバンケット
彫刻家舟越保武さんの妻、そして末盛さんたち7人兄弟の母である舟越道子さんは、俳人、詩人としても知られています。今回は、その舟越道子さんを巡って、娘の目に映った母の姿を、印象深いエピソードとともにお話しいただきました。

道子さんは釧路の商家出身で、兄弟にひとりずつお手伝いさんがいるような家で育ったそうです。一方、「武士は食わねど高楊枝」という言葉を連想するような厳格な家庭で育ったという保武さん。道子さんに一目惚れした保武さんが、ご友人の彫刻家・佐藤忠良さんに、銭湯の湯船のなかでその思いを打ち明けたことや、保武さんから道子さんに送られたお手紙のことなど、心温まるお話を聞かせてくださいました。

決して裕福ではない暮らしのなかで、激しい夫婦喧嘩も多かったというおふたり。道子さんは「わたしたちが喧嘩するときは、いつもお金がないときだった」と語っていたそうです。ご両親の苦しみや切なさも感じていた末盛さん。重なるものを感じると、映画「自転車泥棒」から胸に響くワンシーンを紹介されました。「自転車でやっと仕事を見つけたお父さんが、自転車を盗まれて、今度は誰かの自転車を盗んでしまう。それを小さな子どもが見ていて、ふたり黙って川岸に座る場面が忘れられません。すごく好きな映画ですけど、二度と見る気がしないと思う程、胸が痛い映画」だと話されました。
7人兄弟の末盛さんには、8ヵ月で亡くなられた弟さんがいます。疎開先だった盛岡から東京へ戻るときに道子さんが書かれた美しい詩を朗読されました。「母にとっては、死んだ子どものお墓を残して盛岡を去っていくのは、堪え難く哀しいことだったと思います」。

そのほか、イタリアにて、英語も話せない道子さんが、ひとりで遠くの知人の家まで行ってしまい度肝を抜かれたという話や、フランスにて、ゴッホの終焉の地をふたりで訪ねた日のこと、大学へ入る末盛さんに伝えられた男女交際についての教えなど、お茶目な面もあり、遊び心も旺盛な道子さんのお話に、会場はたびたび笑いに包まれました。
最後に、ヘミングウェイの文章を紹介して、今回のお話を締めくくられました。「『勇気とは、困難にあって人が見せる気品のことである』。これは、母から教わったことだったと思っています」。大変なことや大きな哀しみを抱えても、ユーモアの心を忘れない末盛さんの気質は、お母さまから受け継がれたのだと感じさせる、素敵な逸話の数々でした。