新津保建秀写真スクール「見えないものを撮る」 第6回 レポート
2011年12月3日(土) アネックスB棟

ゲストは、その著書や活動スタイルが常に大きな話題を呼び、今最も注目される言論人のひとりである東浩紀さん。「after3.11の気配を撮る」からスタートした新津保写真スクールの最後の課題として東さんが提示したのは、ずばり「ベクレルを撮る」でした。震災のあと、さまざまな言葉の機能が変わるなか、ベクレルという言葉を媒介に、震災後の変化を捉えるような写真を撮ってくることが課せられました。
そこで問われたのは、現実に進行している“想定外”の事態を、私たちがどれだけ深く、強く、思考し、とらえるかということでした。ベクレルという「よくわかないもの」を視覚的に表現しようとする時、安易なイメージやストーリーは、その現実の強度の前にまったく意味をもたなくなってしまいます。

東さんは、ひとりひとりの受講生に対し、この課題にどれだけ真摯に向き合い、答えているかを問います。なぜそれを対象に選んだのか? その必然性は?その対象からどんなストーリーを引き出そうとしたのか?その対象と現実との距離感は?その対象は現実に裏付けられているのか?と次々に投げかける鋭い質問。「現代美術的ではない、事実を映す写真」という言葉に、実際に被災地に足を運び、その衝撃や体験をベースに言葉を編み出してきた言論人としての東さんの姿勢が見られました。

新津保さんからも、自分の環境や手法に負荷をかけ、これまでの自分の文体や想像力の枠を越えることの必要性が繰り返し語られました。行かないところに行ってみる、いつもの得意手を封じる、予測できないものに出合うことで、私たちは何かを越えることができるのだと。その言葉は、写真を越えて、私たちの生き方そのものにも通じるように思われました。
写真スクールの最後の授業。東さんの歯に衣着せぬ、痛快な講評は、受講生を時に打ちのめし、時に鼓舞し、修了展に向けた創作意欲を大いに掻き立てるものとなりました。