人生に大切なことはすべて絵本から教わった レポート 第5回「M.B.ゴフスタイン『あなたのひとり旅』―出版をめぐって」
2012年2月4日(土) ヒルサイドプラザ

あたたかな日差しが次の季節の訪れをつげる立春のその日、アメリカの絵本作家M.B.ゴフスタインの翻訳絵本『あなたのひとり旅』出版記念イベントが行われました。これは、末盛千枝子さんの名を冠した現代企画室の新シリーズ「末盛千枝子ブックス」の第一弾となります。当日は、本書の翻訳を手がけられた谷川俊太郎さんをお迎えし、おふたりの出会いについて、ゴフスタイン作品や絵本というジャンルの魅力について、そして本書のテーマである大切なパートナーとの別れについて、さらには、翻訳やことばの力について等、縦横無尽に語っていただきました。

大学を卒業後、末盛さんがお勤めになられていた出版社ではじめて出会い、その後、ゴフスタインの絵本を編集者として手がけられるときに、訳はぜひ谷川さんにお願いしたいと依頼したことから、お仕事をご一緒されるようになったというおふたり。
「まったく子ども向けというものではなくて、これぞニューヨーカー!みたいな。最先端のかっこよさを感じさせる絵本。そして、内容は非常に哲学的。それをアンダーステイトメントというか、非常に言い足りないところで表現しているという。そういうところで勝負している。」谷川さんが語るゴフスタイン作品の魅力に、末盛さんも大きくうなずかれます。

長い歳月を連れ添った老夫婦が死別の悲しみと思い出の美しさを歌ったカントリーソング「Your Lone Journey」に、ゴフスタインが絵を添えることで生まれた絵本『あなたのひとり旅』(アメリカでの初版は1986年)、日本語版を出版するにあたり末盛さんが今思われていること――夫にきざす老いの存在を日々感じながら、夫婦というかたちについて、ともに歩まれたこれまでの日々について、末盛さんから語られることばがあります。
「谷川さんのひらがなの長編詩『みみをすます』の『あなた』というのがとても好きです。“わたしとおなじようなみみをもっているのに わたしとはちがうことをきくひと”――それって素晴らしいですよね。」(末盛)
「素晴らしいって。とくに結婚生活では、それで苦労するんですけれども。」(谷川)
老い、死、人生、男と女……そういったテーマにおいてことばを交わし合いながら、谷川さんのウィットに富んだお話に、ユーモアをもってお応えになる末盛さん。会場が笑いに包まれる時間となりました。「簡単にはことばにならないこと」と言われながらも、ご自身の実体験に即し、矛盾に満ちているだろう現実を直視することで生み出されることばの数々は、新たな地平へのいざないのごとく、視野を広げ、自由に考えることができるということを教えてくれたようでした。