東京からのサイレントイノベーション RELAY ESSAY 006

- 松井龍哉
- PROFILE
Date : 2011 / 12 / 28
一言で「東京」と言っても巨大な都市であり、皇居を境に西と東では、見える風景も聞こえる音も異質である。しかし私が東京をイメージする時は、郊外も含め、このような異差や歴史を乗り越えた混沌と多様性が必然的に混在する、大きな流動体としての都市環境そのものを思い浮かべる。
私の年少期は70年代。東京は復興から繁栄に向かうエネルギーが社会を覆っていた気もする。そのようなエネルギーは面白い現象を生む。私がよく感じる東京の面白い特徴は趣味の集まりが肥大化し街を様々にキャラクター化してしまった事があげられる。突出している例は、秋葉原の電気街。そこは子供の時、最先端の意味が理解できる場所であった。トランジスタから世界は変わるという事をなんとなく体現していた。事実エレクトロニクス産業は日本経済を活性化させた。内発的な現象が場を作り人々が集い文化が生まれる。余談ではあるが、趣味をマニアックに上昇させることは日本人の好きな事ではないだろうか。
そして現在の東京。経済繁栄の一瞬のその後、、、緩やかな坂道を下る都市の姿とも感じるが反面可能性も秘めている。世界史的に鳥瞰すれば「過去の都市」と言われそうである。ロンドンやパリやニューヨークに行くと同様の過去性を感じる時がある。ローマや京都にはない気分がある。それは繁栄の余熱がまだ肌感覚で伝わるからであろう。 近過去としての幻影がそこにある。しかし私が考えるに、繁栄を成した都市は、もっと違う形で世界の模範となれる。東京にはその片鱗もある。それは都市の骨格デザインではなく都市の神経を研ぎすますデザインが始まっている事である。 例えば、日産自動車が実際に販売開始をした EV(電気自動車)リーフは新しい車のデザインではなく、社会構造を静かに変える試みである。リーフが走るということは、電気自動車を巡るインフラ整備は日々進化しているのである。東京でのインフラ整備が成功すれば世界を変える事も実証される。目立たないが世界の模範になる静かな都市革命が起きている。静かに美しい発明が生活にとけ込んでいる状況である。同様にソーラーエネルギーの開発も静かに確実に進んでいる。私の会社で開発販売しているマネキン型ロボットもウインドウディスプレイの静かなイノベーションとして機能している。それは70年代や80年代には見られなかった、私達の世代が興している静かなるイノベーションなのである。サイレントイノベーションが興す波動が東京の新しい文化を創るのではないだろうか。
こういう時代の東京から私はロボットで新たな産業をつくろうとしている。「ロボット」はこれから大きく期待されている成長産業であるが、それこそ高度成長期の車産業とは違った形で成熟社会にて発展させていかねばならない。大きな企業に様々な人々が群がる方法ではなく、それぞれ独立した小さな専門集団が共同で産業を築いていくイメージである。選び選ばれる関係であるには街も企業もキャラクターをもっている事が大切になる。成熟した東京に張り巡らされているネットワークは大きな可能性を秘めている。こうした産業運営法もまたサイレントイノベーションなのである。実際に私のロボットベンチャー企業はかなり少数で運営し、ロボットの設計と販売に集中している。そこでは特殊な技術を持つ様々なベンチャー企業と協力して物事を進めている。目的を決定し技術者をまとめあげていくアーキテクトがクオリティを決定していく方法である。この場合(新産業を築くという目的)私はロボットをどう捉えているかといえば、新しい価値の提供を人へ繋ぐ存在という事になる。もっといえば、高性能なロボットの開発をしている訳ではなく、ロボットが静かにしっかりと人々の生活の中で活動するソリューションのデザインとして開発を試みている。ロボットは生活の中へ自然に存在し、それぞれの生活の質の向上を提供してくれる製品となれば産業人としては冥利である。ロボットを巡る需要は、介護や掃除などの労働力にはじまり、今後はもっと様々な環境へ静かに確実にロボット技術が応用されていくであろう。今後この静かなイノベーションを興していく資質は、東京という都市がもつ特徴になっていくであろうし、とても適している都市と考えている。