RELAY ESSAY

ヒルサイドテラスと都市 夏の定住社会 RELAY ESSAY 010

槇 文彦

Date : 2012 / 09 / 21

 前回、このシリーズで私は今日所謂コミュニティを発見、或いは形成し、そしてそれを維持していく事が社会、農村を問わず、いかに困難であるかを指摘した。例えばある特定場所に、家族とその集団が何世代に亘って住み続けるような社会は殆ど世界中どこにもないからである。
 そんな状況の中で、たまたま私が身近に経験することが出来た一つの小さなコミュニティを紹介したいと思う。

 軽井沢から中軽井沢に向かうほぼ中間の国道18号線の南側に南原というところがある。1920年代にそこに林と田園からなる広大な敷地をもっていた地主さんは、たまたま彼自身大学教授で、しりあった別の教授と語り合いそこに学者の仲良し村のアイデアと理想の実現を志した。旧軽井沢の別荘地へのあり方の批判もあり、塀や石垣のないオープンな宅地開発、そして中央に原っぱを設け、そこに学者達の朝の勉強に邪魔にならないよう、子供達もそこに設けられた小さなクラブハウスで勉強して貰うというアイデアであった。南原の開発は1928年、4所帯の別荘から始まった。今日80年後、この小さなコミュニティは140世帯にまで拡大し、世代もそろそろ4代になろうとしているところもある。その間、学者は寧ろマイノリティになると共に、恐らく東京に住む家族の多くは空襲も含め、何回も居住地を変えているに違いない。

 そうであるだけ、同じ家族達が必ず、南原にたとえ1ヶ月余という短い期間ではあるが1年に一度定住社会として様々なコミュニティ生活を楽しめるところは、日本中を探しても殆どない。南原の人々もその希少価値充分認識し、その期間中、子供達はキャンプや習い事、大人にはゴルフ大会、そして大人も子供も一緒に楽しめる運動会がある。

 勿論、これは恵まれた少数の人々の一寸変わった別荘生活に過ぎないといってしまえばそれだけの事であろうが、このコミュニティの80年の歴史は、今後の我々のコミュニティとは何かという問いに対して示唆に富む答えを与えているのだ。嘗て生活の知恵は親が子に、更に子が次の世代にと語り継いできた。キャンプや運動会の準備も含めその実行に、嘗てここで子供時代から知己のあった10代の青年達が献身的にサポートを行う。それをまた次の世代が受け継いでゆく。その間、ここで知り合った同士の結婚も何組かあった。当初の小さなアイデアが大きく育った好例の一つといえるであろう。

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