RELAY ESSAY

OTKJ進行中 RELAY ESSAY 004

池内 紀

Date : 2011 / 09 / 01

 OTKJはちゃんとした意味をもつ略語だが、べつに国際的な認可を受けているわけではない。「金を使わないでらす」の主要四語のアタマ音をくっつけたまでで、ただ自分だけに通用する。本当は「なるたけお金を使わないで楽しく暮らす術」なのだが、それだとNOTRKJと長くなり、当人も覚えきれないので簡略にしている。

 金銭万能の資本主義社会に抵抗するようなものだから、それなりの準備と知恵がいる。ためしに大好きな町歩きのケースでいうと、まずいで立ちだが、シャツとジーンズのズボン、足はウォーキングシューズ、肩にリュックをひっかける。シャツはイタリアのもの、ジーンズはアメリカ製、シューズはドイツの職人の手づくり。どれもけっこうな高値だったが、二十年たっても現役である。イタリア産のシャツは色どりがよくて飽きがこない。Gパンは発祥地アメリカ物にかぎる。ドイツ人は靴にこだわるので足にやさしい。どれも使いつづけると、おのずとくたびれてくるが、ご主人さまも同じテンポでくたびれていくので、いつまでも使える。長い目でみれば、ごく安い買物をした。

 リュックサックはアメリカ・ハートマン社製。よけいな飾りがなく、まっ黒なので、使い勝手がいい上に汚れがめだたない。これもやはり使いつづけて二十年。全体がやわらかくなって、肩から背中のアタリぐあいが絶妙である。おもうにお金を使わない秘訣の一つは、安物を買わないことではなかろうか。

 リュックは紐でしめるタイプなので、口が大きく開く。だから使いよいのだが、もう一つ利点がある。紐にカラビナをつけると小袋が吊るせるのだ。カラビナは登山の小道具だが、当今は小さくておシャレなのが出廻っている。OTKJにおいては小袋が大切な役割をになっており、たとえば一つにはアメ玉がいろいろと入っているが、疲れたときのおもり役だ。となりの小袋に魔法壜。人間工学の精華とかで、両手でつつめるほど小さく、とても丈夫で蓋がコップになる。どこでも即座に熱いのや冷えたのを飲める。

 またべつの小袋には、カゼ薬や胃腸用など、ちょっとしたクスリ類が入っている。お金を使わないで暮らしを楽しむには、いうまでもないことながら健康が第一である。カゼや腹下しのけはいを感じたら即座に対応する。半日でも遅れると、クスリは効かないものなのだ。

 さらに「写ルンです」の小袋が紐にぶら下がっている。フィルム兼カメラというありがたい商品だ。マッチ箱のように軽くて、きれいに撮れる。私にはフシギでならないのだが、カメラというと、どうして人はグンと重いのを担いでまわるのだろう? 何度か同行してたしかめたが、ふつうに撮る対象だと、ほとんど写りぐあいはかわらない。またデジカメでやたらにシャッターを押すよりも、即座に選びとった角度から一、二枚に限定するほうが、愛着のある写真ができる。

 世界に名だたるブランドの店などは、大金かけてショーウィンドウに工夫をこらしている。超高級品を格安の「写ルンです」で記録しておくのも、町歩きの楽しみの一つなのだ。

 最後にお金のこと。ズボンのお尻に一つ、リュックの外ポケットに一つ、奥のポケットにもう一つと、財布を三つそなえていて、いつも朝ごとに点検する。お尻には万札と千円札の組み合わせ、リュックの外ポケットの財布は一円・五円・十円玉セクション、五十円・百円玉セクション、千円セクションの三部立て。リュックの奥のポケットはいざというときの護身用で、自分ではイケウチ・バンクと名づけている。

 銀行をもつ余裕があると、なぜかお金を使う気にならない。朝ごとに点検・補充したあとは、きれいに忘れている。この金銭社会にあって、お金のことを忘れているのは、もっともゼイタクな暮らし方ではなかろうか。

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