RELAY ESSAY

都市生活の豊かさ RELAY ESSAY 009

後藤 陽次郎

Date : 2012 / 08 / 01

 都市で生活をしていると、ふと、豊かさとは何だろう?と考える時がある。美味しいもの、美しいもの、先端技術、有名ブランド、華美なスペース、高級な品々、あらゆる情報、世界のアート、デザイン、なんでも手に入る都市。

 そんな都市で快適な暮らしをするのは、決して楽な事ではない。住まいを手に入れるのも、家賃は高く、まして購入するにも手がでない。それでも、仕事をするためか、刺激がほしいのか、都市の魅力は無限である。

 ロンドンの人達に話を聞くと、ウィークデイは勿論都市で仕事をしたり、いろんな人と出会ったり、イベントを観たりと、都心にいたほうがいいが、ウィークエンドは郊外のカントリーハウスに住むのが、多くの人の憧れの様である。

 僕のボスであり、ロンドンの父でもあるTerence Conranも、最近は、週の半分は市内のアパートメントに住み、残りはBarton Courtと呼ぶカントリーハウスで自然とともに暮らしている。デザインや仕事の発想もほとんど、このBarton Courtから生まれて来るらしい。昨年、そのカントリーハウスで、彼の80歳のバースディパーティに光栄にも招かれて伺った。30数年前に手に入れたマナーハウスを彼の手でリノベーションして住んでいる。広いガーデンに突如現れたその日の為のレストランに、世界から200人程の友人たちが駆けつけた。大好きなファイヤーワークスが打ち上げられ、美味しいワインに食事、楽しいミュージカルやショーが催され深夜まで賑やかで楽しい時間を過ごすことができた。川が流れる庭には、鮮やかな緑の木々や花が咲き乱れ、ハーブガーデンや野菜の温室、数十羽の鶏も飼育し、自然の野鳥がたくさんやってきて、アートのオブジェと戯れている。広大な敷地には、彼のデザインした家具を制作する家具工場までもある。すべてが自然の中で共生する。なんと豊かな生活なのか。夢のような生活である。都市にいるよりもずっと豊かな生き方の様な気がする。

 もちろんそんな生活は誰もが出来る訳ではないが、唯一共通なことは、生活にどれだけ多くの自然を取り入れることができるかだ。

 キッチンやリビングの窓からいつも自然の緑が見える場所。
できれば、ベッドルームで自然なこぼれ陽で目が覚める場所。
僕の住むところ、働くところはそんな場所だと、決めて来た。
都市の中で見つける事は容易ではないが、今まで居をかまえたところは、すべてそうだ。思えば叶うものである。
ヒルサイドテラスはそんな僕にとって、憧れの場所であり、落ち着ける場所である。発想も豊かになれる環境こそが、住まいとなり、仕事場となることが理想だ。決して豪華さや、華美なデザインが豊かさではない。
都心にあって、これだけ多くの自然を残し、育て、共生しているところは、他には見当たらない。そんな場所に文化的な人やものが集まり、美味しいものも集まってくる。

 日本人は四季を感じ、味わい、楽しむ。そのデリケートな感性を慈しむ。
忘れてはいけないのは、そんな日本人の豊かさをだ。

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